またもや、新型コロナウイルスが猛威を振るう。感染拡大の「第6波」は、にぎわいを取り戻しつつあった街に再び暗い影を落としている。夜、大阪の盛り場に浮かび上がる光の列は、ある業界の苦境を映し出す。(岡野翔)
50台を超えたところで、数えるのをやめた。きりがない、と思った。
1月28日午後11時半。大阪を代表する繁華街・北新地(大阪市北区)周辺の大通り沿いのタクシー乗り場には、客待ちの車列が1キロ以上にわたって続いていた。
「どんなもんや」
「全然あかんねん。プレミアムフライデーちゃうんか」
最後尾についた運転手がたばこを手に車を降り、1台前の運転手と雑談を始めた。
新型コロナウイルスの感染再拡大を受け、大阪府に「まん延防止等重点措置」が適用されて最初の金曜日。この日の府内の1日当たりの新規感染者は、初めて1万人を超えた。北新地の人通りはまばらだった。
◇
日付が変わったころ、車列から少し離れた場所で、1台のタクシーに乗った。
「年末は忙しかったんですけどね。正月明けの4日以降、『流し』は全然。客を探すよりヒトを探すといった感じです」
夜の街を走りながら、男性運転手(46)はそう教えてくれた。関西の感染者数が増えれば増えるほど、客足は減る一方だという。
乗務歴は2年半余り。週6回、夕方から明け方まで勤務する。本来は、午前0時以降の数時間が稼ぎ時だ。まずは阪急の大阪梅田駅前で終電を逃した人を待ち構え、京都や神戸方面の自宅まで送り届ける「ロング」を狙う。
「波」が過ぎると、北新地へ。高級クラブ帰りの客が多く、単価が高い。「待機は長いですが、『1万超え』も期待できます。ただ、この1週間は芦屋(兵庫県芦屋市)が1人だけ。低生産性の極みです」
コロナ下でも、感染が落ち着いている時期の平均売り上げは、税抜きで月100万円を超えていたという。だが、「第6波」が訪れた1月は「1日で2万いけば良い方」だ。
乗り場で2時間以上粘った結果、ワンメーターの稼ぎだったことも。そんなときは、ツイッターで恨み節を投稿し、同じような境遇の運転手仲間と励まし合う。
◇
長時間、待ったとしても…
午前1時過ぎ。男性の車は、「グリコ」などの巨大看板で知られる繁華街・ミナミ(大阪市中央区)に向かった。
「みなさん、攻めますね」
午後10時~午前1時の乗り入れ禁止時間が過ぎ、キャバクラやホストクラブ、バーなどが所狭しと並ぶエリアに入っていく数台のタクシーを横目に、男性がつぶやいた。含みを持たせた言い方だった。
「入ってみましょうか」
取材の意図をくんでくれたのだろう。車は幅の狭い一方通行の道を進んだ。
「うわっ」
男性が突然、ブレーキを踏んだ。
派手な髪色をした20歳前後…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル